勉強の話  2018年2月16日|金曜日

速読とスロー・リーディング

「速読」のイメージとしては、ページをパッパッとめくって内容が理解できている状態で、学習も進み、入試やテストにも有効、という感じでしょうか。

 

国語の模試の作成をしていた頃、締め切りに追われていた時期がありました。

とくに「小説文」については著作権の関係や入試傾向なども考えると、選定に時間がかかります。

純文学でしかも中学生くらいの子が読むジャンルというのは、じつは業界的にはニッチな分野で、題材の選定に非常に苦労した思い出があります。

書店で候補作品の本を何冊か購入する場合、スーパーで食材を買うような要領でどさっと買い込んでいました。

 

ある締め切りに追われていた頃、それまで題材として考えていた作品がどうしてもあと一歩問題を作成することが困難と分かった時、別の作品にすることにしました。

頂上まであと一歩なのに、危険が考えられるために下山するようなものです。

 

そこから少し焦って、8冊くらいの本を急いで集めて猛烈に読みまくりました。

入試傾向などはすべて頭に入っているので、読んでいくうちにセンサーが働きます。

直感で「この辺り」というのを頭が教えてくれますので、その部分を深堀りするのです。

 

その時の読み方がいわゆる「速読」でした。

1冊200ページを15分くらいで読みました。

 

ちなみに私の普段の読み方は同じ業種の人とくらべると遅い方です。

名古屋から東京に新幹線「のぞみ」で行く時、読みやすい新書一冊分を読了するくらいのスピードです。最近は静岡あたりで寝落ちしますが。

しかし、背に腹は代えられないもので、この時ばかりは時間との闘いでしたので「速読」をしました。

本当は本はじっくり読みたいのですが。

 

私の「速読法」はいくつかに分類されます。

 

微速読……普段読むスピードの2倍。一字一句読んでいるが速い状態。

センテンス速読……一文を把握するスピードを速くする。

段落速読……1段落ごとに丸ごと視野に入れて、かたまりとして把握しながら読んでいく。

グラデーション速読……章立ての最初は普通のスピードで読み、徐々に速く読んでいく。

横流し速読……見開きのページ全体が視野に入るようにして、右から左に視点移動していく。

ハイパー速読……見開きのページ全体をパッと見て、文字が勝手に頭に入ってくるような感じで見ていく。

 

これは私の我流の速読法ですが、ここでご注意いただきたいことがあります。

センテンス速読までは確かに速く読むのですが、それ以上の読みは「読書」といえるかどうか、ですね。

どちらかというと「テキスト」を判別するような作業に似ていなくもないです。

 

つまり「速読」というと「読解」も入ってくると誤解しやすいのですが、そうではなく「速視」と捉えた方が良いでしょう。

 

これは意識していなくても普段から実践されているかもしれません。

 

例えば、「チラシ」「新聞のテレビ欄」「ネット」「道路交通標識」「スーパーのポップ値段表示」。

皆さんパッパッと見ているのではないでしょうか。

 

「速読」で最も有効なのは、「視野を広げる」ことと「テキストの判別」です。これらのことについては大変有効でしょう。

時間が制限されるテストでは、ある一定のスピードはどうしても必要ですから、「速読」が使えるかもしれません。

 

その本を「味わう」「ハラに落とし込む」という時の読書と、「速読」とは目的が違うことを念頭に置けば良いと思います。

 

「速読」をパソコンなどで使って訓練する教材もあります。この場合はその練習するテキストに着目するとよいでしょう。やはり年齢相応の文章の平易な文章が推奨されます。

合わない場合はやめた方が良いでしょう。弊害になるおそれがあります。

「速読」については読み込みが浅くなる恐れがあり、読書というものの捉え方が偏る危険性があるからです。

 

「速読」に有効なものは、公的な試験対策、内容は理解しているが時間切れになって不利になる人、視野を広げたい人、仕事上の情報処理能力を上げたい人が適しています。

そうなると、国語の読解とは異なる訓練だということがご理解できると思います。

 

結局、私は必要に迫られた読み以外では、速読についてはおすすめしません。

読書は自分のリズムで読むのが一番いいからです。

 

 

『おかしなはがきが、ある土曜日の夕がた、一郎のうちにきました。』

 

私の好きな宮沢賢治の「どんぐりと山猫」の冒頭の文です。

この文は速読すれば何ともないのですが、じっくり何度も読んでみてください。

 

ゆっくり読むと、「おかしなはがき」「土曜日の夕方」「一郎のうち」のイメージがわいてくるのです。

 

「おかしなはがき」は、どんなはがきだろう?と潜在意識に働きかけます。

この疑問がのちの文を読み進めることで氷解します。そして、はがきを出した人がつたない字で時間をかけて精一杯書いたことがわかるのです。

 

「土曜日の夕方」とはどんな感じだろう。

夏休みの夕方で、まだ陽が高くセミがどこかで鳴いているかもしれない。

秋の夕暮れで、どこかでワラを燃やしている匂いがしているかもしれない。

冬の薄雲った肌寒い夕暮れ、遠くから電車が走るレールの音がするかもしれない。

春の新学期が始まった頃、雨がしとしと降る中、桜の花びらが散り始めているかもしれない。

 

と、文字のイメージがパーと湧き立つのです。

そしてそのイメージが次の文章と有機的に結びついて、さらなるイメージが膨らみます。

頭の中に無限の世界が広がります。

 

このような「読み」は、瞬時に読む「速読」には得られないものです。

 

じっくり読むということをお勧めしているのが、作家の平野啓一郎さんです。

 

 

食事でも、「ファースト・フード」と「スロー・フード」に分かれるように、読書にもそれぞれに合わせた方法があります。

今回は「速読」と「スロー・リーディング」を対比してご紹介しました。

「読み方」についてはたくさんありますので、またの機会にご紹介します。

 

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