こんな話 2018年2月18日|日曜日
暗唱ハンドブック作成顛末記
かつて市販できるのを目的とした古今東西の名文、名詩、和歌などを集めた「暗唱ハンドブック」の作成に携わったことがある。
最初は、プリント形式で手軽に作成していたが、まとめて本にしてしまおうということになった。
製本するくらいなら、販売可能なように出版社に掛け合って、しっかりしたものにしようとなった。
もちろん著作権フリーだから思う存分に選べると思った。
スタンダードな古典、和歌、漢詩、名句などわくわくしながら選定して、初稿を出した。
ところが出版社から、2点どうしても著作権の許諾がいると言われた。
「そんなわけないでしょう?どれももう100年以上前の作品ですから。」
それで、どういう作品が著作権に引っかかったのだろうか。
①フランス象徴散文詩『地獄の季節』 アルチュール・ランボー
え?これ……19世紀の詩ですよ。
-はい。どなたの訳を採用されましたか。
もちろん中原中也でしょう。
なぬ?
中也にまだ著作権があったとは。
②漢詩 『勧酒』 于武陵
え? これ……唐の漢詩ですよ。ゆうに1000年以上前の漢詩ですが。
-たしかに原作者は問題ありません。問題は訳詩の人ですが…。
うん? 井伏鱒二……。
-はい。こちらの訳詩に著作権があります。
またか。
「さよならだけが人生だ。」という一節。
これは外せなかった。
確かに井伏鱒二の名訳だ。
思わぬ訳詩の著作権があったが、こちらも無事許諾を得て出版できることになった。
外国の詩でも日本語訳詩がすばらしいのはそれだけで古典の風格がある。
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