勉強の話 2018年5月26日|土曜日
教養堂のこだわり指導ポイント① 文化史こそ暗記で終わりたくない。
文化史、面白いです。
授業をしていて一番楽しい分野の一つに「歴史の文化史」を私は挙げます。
「歴史」は、政治や経済、そして外交が主役になりがちなのですが、実は最も歴史で子どもたちに伝えるべきは文化史ではないかとさえ思っているのです。
私はこれまで中学生が使う歴史教科書に登場する国宝や重要文化財はあらかた実際見ることができました。ただ一般公開されていないものの中にはまだ見ることができていないものもあります。一生のうちで見られたら良いですね。
写真で見るのと、現物を前にこの目でしっかり見るのとは全く違います。
どう違うのかをご紹介します。
写楽を夜中に一人で見ると動き出す
何年か前に東京国立博物館で、浮世絵の東洲斎写楽の『大写楽展』を見ました。
写楽の浮世絵をあれほど徹底的に見せてくれる展覧会も珍しいです。
実は、写楽の浮世絵は夜中に一人でこっそり見ると「動き出す」という伝説があります。
私はこの展覧会で、はからずとも「それ」を体験してしまったのです。
そして芸術の神髄を垣間見た気がしました。
写楽の浮世絵の一つ、あれはたしか『三代目澤村宗十郎の大岸蔵人』だったと思いますが、その絵の前に立って、じっと鑑賞してみました。
全体を見る感じで、凝視はしません。
ぼーと見る感じです。
ちょうど展示場での照明も普通よりも暗めだったのが集中できる環境でした。
絵と自分の目の距離を微妙に変えながら調節しました。
ある距離から見た瞬間、写楽のあの特徴的な「目」や「鼻」「口元」がいきなりバーンと自分の鼻先あたりに飛び出してきました。
まるで近くにいるような立体感を伴って、話しかけてくるような感覚になりました。
写楽は漫画のようにデフォルメされた絵なので、リアリズムとは程遠いはずなのですが、それが妙にリアルに感じました。
その瞬間に、それらの情報が網膜に映り、脳に信号として送られ、脳内で勝手に立体化しリアル化する作用があるのだと気づきました。
そのように見えるように計算されて、あの浮世絵が制作されているのです。
それは刷った紙の質感、背景の雲母擦り、大首絵の構図、輪郭、目の配置、すべてが有機的に結びついて、見る者の脳内に映し出すのです。
これが写楽の持つ魔力です。
しかし、それは本物を見ないと分からないのです。
例えば、資料集やパンフレットをいくら見ても残念ながらそうは映らないのです。
屏風絵は現代の3Dアニメーションになる
屏風絵などもそうです。
桃山文化を代表する、狩野永徳『唐獅子図屏風』や江戸時代の俵屋宗達『風神雷神図屏風』。
以前、名古屋市博物館にもやってきました。
資料集では平板に真正面から撮影されています。
しかし、本来は屏風のように立てて見なければいけないのです。
私は展覧会で、屏風絵図を左右から色々な角度で鑑賞してみました。
見る角度によって、屏風の絵はさまざまな表情を見せます。
獅子の迫力や風神と雷神の距離感、そういうものが本来の形として現れてくるのです。
さらに照明の当て方にも問題があります。
当時は電球などありません。
では当時と同じく夜にろうそくの明かりで見たらどうでしょうか。
これは現代では展示するのに不可能でしょうね。
ろうそくの灯で見てみる
ろうそくの火の灯で見る「唐獅子図屏風」はどんな風に映るでしょうか。
灯のゆらめきで獅子たちが動き出します。
背景の金色の輝きが炎のように揺らめきます。
アニメを知らなかった当時の人からすれば、屏風図の迫力はいかばかりか。
一度、授業で『風神雷神図屏風』をカラーコピーして、屏風のように折り曲げて、子どもたちの前に持って行ったことがあります。
教室の明かりを消して、ろうそくに火を灯して見たら、コピーであっても幽玄さを醸し出すことはできました。
本物を前にした当時の天下人たちや教養人の宴が想像されます。
感性を子どもの頃に広げる
ある時代にそしてある地域に突出して怒涛のように出てくる情念みたいなものが、ある一つの芸術作品やその時代を象徴する文化の代表作品となります。
すべての感情を爆発させたような縄文文化の土偶の数々。
運慶が彫った人の顔、そして眼光。
歌川広重の、はっと目が覚めるような美しい青。
こういった作品を味わうことで、何か人間の根源的な情念を捉えることができます。
人間の中の奥底にある深淵を表現した文化、芸術的なものを伝えれば、もっと子どもたちの感性は広がり可能性は広がることでしょう。
ですから、歴史の文化史も単なる暗記物にはできないのです。
文化を尊重することで、実は他者のことも尊重できる感性が広がると私は思います。
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