こんな話 2018年2月8日|木曜日
教材選定は築地に行く感じ
こんな風に仕事ができたら幸せだろうな、と思う人が2人いる。奇しくも2人とも料理人だ。料理界はサービス業の極北を示してくれる。
フランス料理界の伝説の料理人ベルナール・ロワゾ―。
それまでのフランス料理の伝統を転換した引き算の美学で、新しい風を吹かせたレジェンド。
彼はファースト・フードに侵されつつあったフランスの子どもたちに対しても食文化の大切さを語り、食育にも熱心に取り組んでいた。
素材のおいしさを素直に生かした料理は、現代の自然志向の料理法の先駆けであった……と、食べたこともないのに語れるほど偉大な人だ。
天才といわれた銀座のすし職人、藤本繁蔵。おまかせの仕組みを確立、店の調度品の選定、カウンターの置き方など徹底的にこだわる。
寿司だけでなく店の作りから細部に至るまで自分の美学を追求。
築地で最高級のマグロを特別に彼の店だけが使うことを許される。
寿司を高級和食に格上げした破格の職人だった。
さて、教養堂では3月から新年度の通常授業を始める。
通常授業で使用するテキストについては、その子、その子に適宜変えるつもりだ。
教科書の準拠テキストは定期テストのためにも使うので、それはだいたい同じになるかもしれない。
飛び級の子やはるかに予習を進めていく子には必要がないかもしれない。
教科書準拠とは別に実力養成のテキストも使用するつもりだ。これらのテキストは教科書レベルをはるかに超す発展的な内容のものもガンガン使いたい。
教科ごとに全く違う教材会社のテキストをそれぞれチョイスするかもしれない。同じ教材シリーズでも発展と標準がある場合は一律にせず教科ごとに変えるかもしれない。
教養堂はすべてのソフトにアラカルト形式というパーツが埋め込まれている。
弘法筆を選ばずというが、ことテキストに限っていえば選び抜きたい。
新年度のテキストは2月いっぱいじっくり選ぶ。
今年は教科書の内容もあまり変わらないので、どこの教材会社のテキストも内容を大幅に変えてくることはない。
逆に子どもたちの様子を見て、どのテキストが一番いいかをシュミレーションする。
一般的な書店で売られている教材でもいいものがあるが、塾などに卸している教材会社のテキストは指導者が使うことを前提に作られているので色々都合がいい。
ただしテキストの出来、不出来の如何では、1年を憂鬱に過ごす羽目になる。
しかし私は教材会社のテキストにはいつも敬意を持っている。
駆け出しのころは、自分の授業にやりやすいようにプリント作りにいそしんでいた。
今思うと、自分の授業力がないために自分がやりやすい教材を作っていたに過ぎなかった。
それぞれの教材会社のテキストには作り手の思想や方針がある。
これ、いいな、と思うテキストは本当に制作者に頭が下がる。
昨年も、新作で国語の入試対策の実力養成のテキストでいいものがあった。
それを見たときは、これ一冊で十分じゃないか、と思った。
出典の作品と作家名をまず見て、バランスの良さに「やるな」と思う。
問題の出し方や聞くポイントも、「そう、そこ。まさにそこ聞いてくれてありがとう。」と思う。
解説も丁寧に作られている。
いいものは本当に力がつく。
分かってるなあ、これ作った人は、と思う。
銀座のすし職人が朝、築地へ行って上物を買い付ける。
仲卸の人が声をかける。
「大間の本マグロで今朝入ってきたやつ、いいよ。」
教材を選ぶときは、まるで築地でいいネタを吟味する寿司職人のようになる。
このテキストなら、まちがいねえ。
選び抜いたテキストなら子どもたちに自信をもって薦める。
浮気はせず使い倒す。
1冊のテキストをしっかりやりこむことも教えたい。
ちなみにテキスト選定は授業後の夜に選ぶとロクなことが起こらない。
たいがい入試シーズンで、クタクタになった後の夜中に選ぶと感度が違う。
「このテキスト、ばっちりだね。」と思って選定する。
忘れた頃に、その選んだテキストが人数分教室に届く。
使い始めて「あれ?こんな風だったけ?」となる。
まだ2月が始まったばかりだ。
昼間の静かな時にじっくり選ぶ。
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